研究論文

我々スポーツの現場で働く人間は、発表された研究論文などから新しい情報を得て自分の仕事に反映させていきます。私も大学を卒業する際に研究論文を提出しました。本格的な研究は大学院で行われるので、私の場合は研究の仕方と論文の書き方を学んだという程度に過ぎないと思いますが、スポーツの現場で経験を積み、たくさんの論文を読んできた中でふと考えさせられたことがあります。この根本が間違っていたらどうしようもないですが、私は基本的に研究というのは最終的に現場に還元されるべきものであると思っています。学会などに出席して研究発表を聞いていると、「何のために研究をしているの?」という質問をしたくなることが多々あります。研究のための研究になっていたり、「どうだ、自分はすごいだろう」と自己自慢・他人を攻撃するものであったりということがしばしば見受けられるわけです。結局我々現場の人間が欲しいと思う研究データは得られないことが多い。ではなぜこういった現象が起こるのか。問題点はいくつかあると思います。まず日本の大学院というのは社会人を経験してから進学する人よりも、大学を卒業してそのまま進学する人が多いような印象を持ちます。つまりは現場での経験が乏しい。こういった状況では現場のニーズは理解されないことが予想されます。また、論文提出が大学院卒業のための要件としての性格が強く、短い期間の中でテーマを選定し、データを採取し、論文を仕上げなければならない。形だけの研究にならざるを得ない可能性が秘められているわけです。日本のスポーツが発展していくためには、海外での方法論や研究データを引用していくばかりでなく、日本国内での研究発表が現場に広く反映されるようにならなくてはいけないと思います。トレーナーは現場にいてなんぼの職業ですが、いつか現場に役立つデータを供給する研究をしてみたいものです。

鈴木章史