『選手教育』

「私は皆さんを治療しに来ているのではなくて、自己管理のできる選手にするために来ている」これは私が以前トレーナーをつとめていた高校の野球部での口癖でした。アスレティックトレーナーの大切な業務の一つとして選手教育というものがあります。どちらかというとベテランの選手よりも若い年代に対しての方が重要度の高い項目だと思います。人格が成長しきってからでは人間はなかなか変われないものです。若いうちに自分の体について知り、能動的に対処することを学習するとその選手の選手寿命も延びると思います。
 プロスポーツや実業団の世界はかなり閉鎖的な世界で、選手も情報を得られる機会は想像以上に限られています。我々が与える情報はあくまでガイドラインなので絶対的なものではありませんが、明らかに誤った認識を植え付けられてしまった選手もたくさんいるように感じられます。結局他の選手から聞きえた情報がその選手のスタンダードになり、閉鎖的な世界だけにどんどん増殖していく…。チームの予算的な問題もあり、経験のほとんど無い若者が、人件費が安いという理由でトップレベルの選手に関わっていたりする。トレーナーが与えた情報を選手が誤って解釈したというものや、選手に前向きな選択をさせるためについた嘘というのもあるでしょうが、選手に聞かれてわからないから適当に答えたと推測されるものもあるような印象を受けます。スポーツ選手は非常に純粋で、何も書き込まれていない白い紙のようなもので、我々が選手に話すことはその白い紙に油性ペンで文字を書き込むのと同じようなものです。我々の一言がその選手の一生を左右するものであるということを強く認識し、自分の発する言葉に責任を持つことが必要だと思います。
 話は少し逸れますが、かつて私が研修生時代に恩師に言われた印象的な言葉があります。『どこで仕事をするかではなくて、そこで何をするかが重要である』トップレベルのアスリートを相手に仕事をしたいという希望を持っている若者もたくさんいるでしょう。そういった若者には、実際にJリーグや実業団に入ってから“トレーナーとして”どんな仕事をするのか、明確なプランを持って足を踏み入れるよう啓蒙していければいいと思います。

鈴木章史