哲学

大学生の頃、とても退屈な授業がありました。その授業はスポーツ倫理学・哲学。スポーツ医学やバイオメカニクス、運動生理学など目の前ですぐに実践に結びつくような科目とは違い非常に地味で、正直どんな講義内容だったか記憶が定かではありません。なぜこんな授業を受けなければならないのか…そう思ったことは覚えています。
 医療資格を取得するために専門学校に通ったときも医学の倫理や歴史を学ぶ授業がありました。医学の倫理というと世間をにぎわすことも多く、何となく受け入れやすかった気がします。医療は神聖なものというイメージのせいでしょうか。
 しかし競技スポーツに深く関わるようになって自分自身の価値観は大きく変わりました。スポーツは神聖なものなんだと強く思うようになったのです。“スポーツに関わるのであればまずスポーツを知れ”今はそういった感じでしょうか。スポーツの歴史的背景や思想などを知ることはとても重要で、スポーツに関わるものとして自分自身の深みを形成していくのだと思います。高校を卒業してすぐの大学生がそう思うには経験が足りなすぎるのかもしれません。スポーツ、特にメディアに取り上げられるレベルは華やかに見え、競技者としても、それを取り巻くスタッフとしても、そこに憧れる若者が増えています。でもどんなに知識を持っても、スポーツの哲学を知らなければどこかで道を間違えてしまいます。我々が若者を研修する時に一番難しいところでもあります。トレーナーとして仕事をしていると、トレーナーとしての哲学も自然と湧き上がってくるでしょう。面白いもので我々が同業者とそれぞれの哲学について情報交換をすると、たいてい相手の技量や人間性がわかります。最近の学生は勉強熱心で僕らの学生時代よりもはるかに知識を持っていると感じます。でも何かが足りないと思うことがあります。きっと哲学というのもその一つであるような気がしています。

鈴木章史